公的年金には支給事由によって、「老齢年金」、「障害年金」、「遺族年金」という3つの種類があります。本記事ではそのうち被保険者が亡くなったときに遺族に支給される遺族年金について解説します。
目次
遺族年金とはその名のとおり亡くなった被保険者の遺族に支給される年金です。それでは具体的にどのような仕組みで、どのような条件で支給されるのかを確認してみましょう。
遺族年金は国民年金または厚生年金に加入している人(または加入していた人)が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた配偶者や子などの遺族に支給される年金です。国民年金から支給される遺族年金は「遺族基礎年金」、厚生年金から支給される遺族年金は「遺族厚生年金」と呼ばれます。それぞれ支給される金額や対象となる遺族の範囲が異なるため、後ほどくわしく解説します。
遺族年金の対象となるのは、亡くなった被保険者によって生計を維持されていた遺族です。そのためには原則として次の2つの条件をどちらも満たす必要があります。
したがって、前年の年収が850万円以上の配偶者は支給対象になりません。一方で、内縁の妻(夫)であっても健康保険の被扶養者であるなど、事実上婚姻関係と同様の事情にあり、かつ生計を同じくしていることの証明ができて、収入要件も満たしていれば、遺族年金を受給できます。
遺族年金は老齢年金と違って、所得税(および復興特別所得税)の課税対象になりません。もちろん、相続税もかかりません。つまり非課税です。したがって、確定申告や年末調整は不要です。また、翌年の国民健康保険料や、住民税の計算においても収入には含まれないため、遺族年金を受け取ることで国民健康保険料や住民税額が増えることはありません。
遺族基礎年金は国民年金の被保険者等であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に支給される遺族年金です。遺族基礎年金を受給するためには亡くなった被保険者が一定の受給要件を満たしている必要があります。
遺族基礎年金の受給要件は次の4つです。いずれかの要件に該当すれば受け取ることができます。
遺族年金をもらえる人は、死亡した方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。「子」とは次の2つの条件のいずれかに該当する人をさします。
なお、子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間や、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子には遺族基礎年金は支給されません。
遺族基礎年金の年金額は毎年度見直されます。令和5年度の支給額は次のとおり計算されます。
配偶者の年齢 | 支給額(令和5年度) |
配偶者が67歳以下 (昭和31年4月2日以後生まれ) |
795,000円+子の加算額 |
配偶者が68歳以上 (昭和31年4月1日以前生まれ) |
792,600円+子の加算額 |
子の受給要件 | 支給額(令和5年度) |
18歳になった年度末までにある子 又は 20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子 |
795,000円+2人目以降の子の加算額 |
子の加算額
1人目および2人目の子の加算額:各228,700円
3人目以降の子の加算額:各76,200円
家族構成ごとの支給額は次のとおりです。
遺族の家族構成 |
遺族基礎年金の年間支給額 |
配偶者のみ | なし |
配偶者と子1人 | 102万3,700円 |
配偶者と子2人 | 125万2,400円 |
配偶者と子3人 | 132万8,600円 |
遺族年金がいつまでもらえるか気になる方も多いと思います。遺族基礎年金は亡くなった方に生計を維持されていた子が18歳になった年度の末日(3月31日)まで受給することができます。ただし、子が障害年金の障害等級1級または2級の状態にある場合は受給期間が延長され、20歳になるまで受給できます。
なお、遺族基礎年金を受給している配偶者や子が結婚したり、直系血族または直系姻族以外の養子になるなど、一定の事由に該当すると受給権がなくなる場合があります。受給権がなくなる条件は次表のとおりです。
寡婦年金とは自営業者や農業者など国民年金の第1号被保険者の夫と婚姻関係(事実婚を含む)にあり、死亡当時にその夫に生計を維持されていた妻が60歳から65歳までの間に限って受け取れる年金です。
具体的には、死亡日の前日において第1号被保険者としての保険料納付期間(保険料免除期間を含む)が10年以上ある夫が、老齢基礎年金、障害基礎年金を受けることなく亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実婚を含む)にあり、その夫に生計維持されていた妻が60歳から65歳までの間、受給することができます。
寡婦年金の年金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3の額です。サラリーマンや公務員など第2号被保険者として納付した期間は年金額に反映されません。
なお、妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受給している場合、寡婦年金は支給されません。
遺族厚生年金とは厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受給できる遺族年金です。なお、かつては公務員や私立学校教職員は共済年金に加入していましたが、共済年金は平成27(2015)年に厚生年金に統一されました。したがって現在は公務員や私立学校教職員の方も厚生年金に加入しています。
受給要件は次のとおりです。1から5のうち、いずれかの条件に該当すれば、遺族厚生年金が支給されます。
※ 1および2の要件については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要。ただし、死亡日が令和8(2026)年3月末日までの場合は、死亡した人が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよい。
※ 4および5の要件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある人に限られる。
遺族厚生年金をもらえる人は、死亡した本人に生計維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母です。このうち次表の優先順位にしたがって、順位の高い人が受給できます。なお、遺族基礎年金を受給できる遺族はあわせて受給できます。
優先順位 |
遺族厚生年金の受給対象者 |
1 | 子のある配偶者 |
2 | 子(18歳になった年度の3月31日までにある、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子に限る。)*1 |
3 | 子のない配偶者*2 |
4 | 父母*3 |
5 | 孫(18歳になった年度の3月31日までにある、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある孫に限る。) |
6 | 祖父母*3 |
*1 子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されない。
*2 子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給できる。また、子のない夫は、55歳以上の人に限り受給できるが、受給開始は60歳からとなる(ただし、遺族基礎年金を合わせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できる)。
*3 父母または祖父母は、55歳以上である人に限り受給できるが、受給開始は60歳からとなる。
遺族厚生年金の年金額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の金額です。報酬比例部分は年金の加入期間や過去の報酬(平均標準報酬月額)等に応じて決まりますが、前述の「遺族厚生年金の受給要件」の1、2および3に基づく遺族厚生年金において、厚生年金の加入期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します。
<報酬比例部分の計算式>
報酬比例部分=A+B
A:平成15(2003)年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額 × 1,000分の7.125 × 平成15年3月までの加入期間(月数)
B:平成15(2003)年4月以降の加入期間
平均標準報酬額 × 1,000分の5.481 × 平成15年4月以降の加入期間(月数)
厚生年金加入期間を300月とした場合、平均標準報酬額ごとの遺族厚生年金額の目安は以下の早見表のとおりです。
遺族厚生年金の年金額早見表
平均標準報酬額 |
遺族厚生年金額(年額) |
20万円 | 246,645円 |
---|---|
25万円 | 308,306円 |
30万円 | 369,968円 |
35万円 | 431,629円 |
40万円 | 493,290円 |
45万円 | 554,951円 |
50万円 | 616,613円 |
55万円 | 678,274円 |
60万円 | 739,935円 |
試算の条件:
遺族厚生年金は本人が死亡した日の翌月から支給が開始し、いつまでもらえるかは受給対象者の年齢や子の有無などによって異なります。
<妻>
子がいる妻、もしくは妻が30歳以上の場合は一生涯受給することができます。一方で、子がいない30歳未満の妻は5年間に限り受給できます。
<子・孫>
18歳になった年度の末日(3月31日)まで受給することができます。ただし、障害等級1級・2級の状態にある場合は20歳になるまで受給できます。
<夫>
支給対象となる子がいる場合は夫には支給されず、子に支給されます。子のない夫は55歳以上の場合に限り、60歳から一生涯受給できます(ただし、遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できます)。
<父母・祖父母>
55歳以上の場合に限り、60歳から一生涯受給できます。
中高齢寡婦加算とは以下のいずれかに該当する妻が受ける遺族厚生年金に、40歳から65歳になるまでの間、一定額が加算される制度です。加算される金額は年度ごとに見直され、令和5(2023)年度は596,300円(年額)です。
<中高齢寡婦加算の対象となる妻の条件>
65歳以降は中高齢寡婦加算はなくなり、妻は自分の老齢基礎年金を受け取ります。ただし、妻の生年月日によっては老齢基礎年金の額が中高齢寡婦加算の額に満たない場合があるため、そのときに年金額が低下することを防止するために、次のいずれかに該当する場合には「経過的寡婦加算」が遺族厚生年金に加算されます。
なお、経過的寡婦加算は昭和31(1956)年4月2日以降生まれの妻には支給されません。
夫(妻)が亡くなったときに、妻(夫)は遺族年金をいくらもらえるのか、いくつかのケースで試算してみましょう。
<前提条件>
夫の死亡時に子は2人なので、それぞれが18歳の年度末をむかえるまでは遺族基礎年金に加えて子の加算が受けられます。その後、遺族年金は停止されますが、夫婦は10年以上の婚姻期間があり、夫の国民年金の第1号被保険者としての保険料納付期間も10年以上あるので、妻が60歳から65歳までの間は寡婦年金を受けることができます。妻が65歳になると妻自身の老齢基礎年金を生涯受け取ります。
<前提条件>
夫は自営業(国民年金第1号被保険者)で、夫婦に子はいないため、夫の死後に妻が受給できる遺族年金はありません。ただし、夫婦は10年以上の婚姻期間があり、夫の国民年金第1号被保険者としての保険料納付期間も10年以上あるので、妻が60歳から65歳までの間は寡婦年金を受給することができます。妻が65歳になると妻自身の老齢基礎年金を生涯受給します。
<前提条件>
遺族厚生年金は一生涯受給することができ、遺族基礎年金は全ての子が18歳の年度末をむかえるまで、子の加算はそれぞれの子が18歳の年度末をむかえるまで受給できます。遺族基礎年金の支給が停止した後、妻は65歳まで遺族厚生年金と中高齢寡婦加算を受け取り、65歳以降は遺族厚生年金と自分の老齢基礎年金を受け取ります。
<前提条件>
遺族厚生年金は、上記のケース3の妻が受給する場合と違い、受給できるのは子が18歳の年度末をむかえるまで、かつ夫ではなく子に支給されます。その後、遺族基礎年金も遺族厚生年金も支給が停止し、夫は65歳以降に自分の老齢基礎年金を受け取ります。
老齢年金を受給している人が遺族になった場合や、老齢年金を受給している人が亡くなった場合の遺族年金の取り扱いについても確認しておきましょう。
「夫の遺族年金をもらいながら自分の年金ももらえますか?」という質問がよくあります。妻が65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受給する権利がある場合、まず妻自身の老齢厚生年金が全額支給されます。その上で遺族厚生年金の額が妻自身の老齢厚生年金よりも多い場合は、その差額について遺族厚生年金として支給されます。
老齢厚生年金を受給中の65歳以上の夫が死亡した場合も、妻の年収が850万円(または所得額655万5千円)未満であれば、遺族厚生年金を受給することができます。夫の年齢が70歳以上や80歳以上であってもそれは変わりません。遺族厚生年金の受給額は夫の老齢厚生年金額のおおむね4分の3の金額です。
遺族年金だけでは足りないと感じる場合は、民間の生命保険と合わせて準備しておくとよいでしょう。その場合、遺族年金で不足する金額は大体いくらで、生命保険でいくら備えれば安心であるかを考える必要があります。遺族年金を補完する主な生命保険には次のような種類があります。
終身保険は死亡保障が一生涯続く生命保険です。契約を継続していれば死亡保険金を受け取ることができるので、葬儀費用やお墓の費用など、万一のときに必要になる費用の備えに向いています。
定期保険は一定期間に限り保障する生命保険です。満期時に解約返戻金はありませんが、その分終身保険と比べると保険料は割安です。「子どもが大学を卒業するまでの間」など、一定期間に限って手厚い死亡保障を備えておきたい場合に向いています。
収入保障保険も死亡保障が一定期間ですが、保険期間中であれば被保険者がいつ亡くなっても同額の死亡保険金を受け取る定期保険と違って、死亡時から保険期間満了時まで毎月一定の金額を受け取る生命保険です。遺族年金で不足する金額は月額で考える方がイメージしやすいかもしれません。また、死亡時の年齢が上がるほど保険金を受け取る期間が短くなるため保障額は徐々に小さくなっていきます。そのため、収入保障保険の保険料は、契約時の保険金額が同じである場合の定期保険よりも割安になる仕組みとなっています。
個人年金保険はあらかじめ定めた期間、保険料を払い込むことで、受取開始期になると、年金が受け取れる保険です。基本的には老後に受け取る老齢年金を補完するための保険ですが、年金受取開始前に万一被保険者が死亡した場合は、通常払い込んだ保険料に相当する額を死亡給付金として受け取れます。
公的年金制度は仕組みが複雑であるため、詳しく理解している人は少ないかもしれません。しかしながら、遺族年金をはじめとする公的年金制度は、いざというときに私たちの生活を支えてくれる大切な仕組みです。また、公的年金の保障内容を理解することで、生命保険による備えもより合理的に準備することができます。ぜひ遺族年金についても理解を深めてください。
ファイナンシャルプランナー(AFP認定者)、企業年金管理士(確定拠出年金)
1977年広島県生まれ。大学卒業後、医療機器メーカー・エアライン系商社で海外営業として勤務した後、ファイナンシャルプランナーに転身。生活に関わるお金の不安を解消し、未来に希望をもって暮らしていくためのお手伝いをする「生活設計のコンシェルジュ」として相談業務や執筆業務に従事。企業や学校での講演・セミナーにも年間100回以上登壇しており、これまでの延べ聴講者数は2万人を超え、わかりやすい説明が好評を得ている。
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MLJ(CMD)23120845