「がん保険」の加入を検討したことがある方は多いのではないでしょうか。今回は、がん保険の必要性やがん保険を検討する際のポイントなどを、さまざまな角度から解説いたしますので、がん保険を検討する際のご参考にしてください。
目次
まず、がんに関するデータを少し見てみましょう。
厚生労働省の令和3年人口動態統計月報年数(概数)の概況によると、死因の第1位は悪性新生物(腫瘍)です。次いで第2位が心疾患、第3位が老衰、第4位が脳血管疾患となっていて、老衰を除くと、いわゆる三大疾病が死因の上位を占めています。
国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性が65.5%、女性が51.2%となっています(2019年データに基づく)。したがって、2人に1人ががんに罹患するといえます。
また、下記の年齢別のがんの罹患率のグラフからもわかるとおり、年齢と共にがんの罹患率は上昇していきます。
なお、がん死亡数の順位をみると、肺がんや大腸がんが多いことがわかります(2021年データに基づく)。
国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」によると、近年、男女とも死亡率が減少してきていることがわかります。
※「年齢調整死亡率」は、高齢化など年齢構成の変化の影響を取り除いたものです。
※基準人口は昭和60年(1985年)モデル人口を使用
このことからも、医療技術の進歩により、「がん=死」ではなく、「治療しながら長くつきあう病気」へと変化してきたことがうかがえます。
一方、がんと長く付き合う場合、治療費用がかさむため、がんに対する備えが必要になります。
がん保険とは、がんの治療に特化した保険のことですが、加入するか迷われている方も多いのではないでしょうか。
まずは、がん保険は必要ないと考える人の立場で、その理由について見てみましょう。
2人に1人ががんに罹患するということは、裏を返せば、2人に1人は生涯、がんに罹患しないということになります。
がん保険は掛け捨てタイプの商品が一般的で、また罹患しても受け取れる金額が多くないと感じるからです。
そのため、がん保険には加入せず、自分で貯蓄してがんに備えるという考え方です。
公的医療保険制度では、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、年齢や所得に応じて実際にかかった医療費の1~3割となります。さらに、支払う医療費の負担が重くならないように「高額療養費制度」があり、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額が払い戻されます。ただし、対象となる医療費は、入院時の食費負担や差額ベッド代などは含みません。毎月の上限額は年齢や所得によって異なります。
医療費が100万円となるケースを見てみましょう。下の例のとおり、医療機関での窓口での負担割合が3割となる方の場合、窓口での負担は30万円となります。さらに、高額療養費制度により、自己負担の上限額87,430円を超える212,570円が払い戻されます。
なお、所定の手続きを行うことで、窓口で一旦3割(本例では30万円)を負担することなく、自己負担限度額(本例の場合、87,430円)までとすることができます。
このように、公的医療保険制度である程度賄えるため、がん保険は不要という考え方です。
がんの治療は大きく「標準治療」「先進医療」「自由診療」の3つに分けられます。「標準治療」(科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者に行われることが推奨される治療)については、公的医療保険制度が適用されますが、「先進医療の技術料」や「自由診療」については、同制度が適用されません。そのため、医療費の全額が自己負担となり、費用がかさみます。
逆にいうと、公的医療保険制度が適用される標準治療を選択すれば、自己負担額はそこまで大きくならないという考え方です。
上記1~4は、がん保険を不要だと考える方の例を紹介しましたが、次のように、同じ情報に対してがん保険が必要と考える方もいらっしゃいます。
考え方は人それぞれです。的確な情報をもとに、がん保険が必要か不要かをしっかりと考えることをおすすめします。
がん保険とは、がんと診断確定された際や、がんで入院や治療などをしたときに備える保険です。
死亡を保障の対象とする生命保険と異なり、医療保険と同じく、生きていくための保険です。医療保険とがん保険の違いは、医療保険の対象となる病気の中でも、がんに特化している点です。一般的に、がん保険の保険料は掛け捨てとなります。
なお、医療保険に「がんの特約」を付けることで、がんへの備えを準備する方法もあります。
では、がん保険と、医療保険にがん特約をつけた場合の違いについて、考えてみましょう。
主な違いは次の3つです。
がんは病気の一種です。したがって、がんを含む病気やケガを保障する医療保険の魅力は、保障の幅広さです。
例えば医療保険の加入中に、病気により入院をした場合、入院日数×1万円の入院給付金を受け取ることができます。がんのみならず、がんを含む病気が保障される方が安心であることは言うまでもありません。
がんに罹患した際の保障が充実しているのは、がんに特化したがん保険といえるでしょう。医療保険の場合は、がんによる入院、手術あるいは先進医療への備えは、一般的に、特約をつけることで準備することができます。がん保険では、抗がん剤治療やホルモン剤治療、放射線治療などに対しての保障も手厚く準備することができる特約があります。また、公的医療保険制度が適用できない「自由診療」に備えることができるがん保険もあります。
医療保険、がん保険の取扱内容は保険会社によってもさまざまです。がんを含めて病気やケガも幅広く保障を備えたい場合には医療保険、がんに対して特に手厚く保障を備えたい場合にはがん保険を検討しながら、比較してみると良いでしょう。
医療保険もがん保険も一般的に、保険料は掛け捨てとなります。ただしいずれの保険も、保障の金額や付加する特約によって、保険料は大きく変わります。
保障の内容と保険料をもとに、がんへの備えを医療保険にがん特約をつけて備えるか、もしくはがん保険で準備するか、検討してみてください。また今後、さらなる医療技術の進歩にともない、医療保険を見直す場面も出てくるでしょう。加入中の医療保険を解約する場合、がん特約だけを残すことはできません。よって、保険の見直しを想定する場合は、医療保険とがん保険を個別に加入した方が、メンテナンスはしやすいといえます。
がん治療の三大治療には、「手術(外科治療)」「薬物療法」「放射線療法」がありますが、がんの種類や状況に応じて、どの治療法になるかはわかりません。また、これらの治療は、状況に応じていくつかの治療法を組み合わせるケースも多いです。
それでは、がんに罹患した際の必要額を検討するために、がんの治療に伴うさまざまな費用について、見てみましょう。
がんに罹患して入院する場合、入院日数に応じた費用がかかりますが、近年、入院日数は短期化の傾向にあります。加えて、公的医療保険には高額療養費制度があるため、短期入院で治療を終える場合には、負担が重くなることは少ないといえるでしょう。
近年、抗がん剤やホルモン剤などによる薬物療法や放射線療法などによる治療の選択もありますが、治療にかかる期間は、がんの状況などによりさまざまです。
また、公的医療保険制度が適用されない自由診療による薬物治療などを行う場合、通常1割~3割の負担となる医療費は、全額自己負担となり、また高額療養費制度も適用されません。よって、治療期間が長くなれば、自己負担の支払回数も増え、経済的負担も重くなります。
先進医療とは、厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた治療法です。先進医療は高い治療効果が期待できる一方で、その技術料は公的医療保険の対象外となるため、費用は全額自己負担となります。また、高額療養費制度も適用されません。
がんにおける先進医療の例を見てみると、陽子線治療の技術料は約269万円、重粒子線治療の技術料は約316万円程度と、かなり高額な負担となります。
昨今、「がんは働きながら治す時代」という考えもあります。完治を目指す患者が、自分らしい生活などを意識して、生活の質(QOL=Quality Of Life)を高めることが重要になります。
そのためには、治療をしながら、また治療後も普段の生活を送るために、ウィッグの購入費、乳がんになった際の乳房再建の費用、 痛みを緩和するための費用などがかかることもあります。
これまでは、がんに罹患した場合の費用について解説してきましたが、がんに罹患することで収入が減少することもあります。がんの治療が長期化して、今までどおりの仕事を継続することが難しくなると家計は苦しくなります。
会社員が休業する場合、要件を満たせば、傷病手当金を受け取ることができ、収入の減少をある程度補うことができます。
しかし、会社の健康保険に加入していないパートなどの場合は、傷病手当金を受け取ることができません。
また、個人事業主の場合、傷病手当金がもらえないことに加え、収入が減少する中でも事業を継続する費用が必要となり、会社員以上に生活が不安定になってしまいます。
収入が減少した際の生活費、教育費、ローンの支払いなどに不安がある場合は、収入の減少をある程度カバーする備えがあると安心といえます。
がん保険における保障の内容はさまざまです。保障の内容をしっかりと理解し、自分に必要な保障を設計しましょう。
がんの主な保障内容の例が下表です。保険会社によって、給付事由、給付金額、支給限度額などは異なりますので、がん保険を検討する際は、各保険会社の商品内容などをしっかりと確認してください。
なお、各給付金の保障は、基本の保障である主契約に含まれているか、もしくは任意でつける特約の保障かなど、取り扱いも保険会社ごとに異なります。
ただし多くの保険会社は、がんの保障には90日間の保障されない期間(不てん補期間、待ち期間)があるため、加入後すぐに保障が開始しない点に注意が必要です。
がんと診断確定された時点で受け取れる診断給付金の受取りにあたっては、入院の期間、手術の有無、治療内容、保険適用の治療か否かなどを問いません。そのため、がん治療におけるあらゆる支出に活用ができます。
また、診断給付金の支払回数については、初めて診断確定されたときに受け取れる初回限定のものや、1~2年に1回などを条件に2回目以降も受け取れるものがあります。初回限定のものは、がんが再発や転移しても再度、診断給付金を受け取ることができないため、注意が必要です。いずれの場合も商品によって、支払条件は異なります。新たに診断、入院、通院など、細かく条件が定められていますので、確認しておきましょう。
通院での治療が増えてきている昨今、診断給付金と共に、がん保障の中心となる給付金です。また、保険商品によって、給付事由や支給限度は異なり、給付金額に大きな差がでることもあります。よって、給付事由が幅広く、受け取れる回数が多いタイプの治療給付金がおすすめです。
以前のがん保険は、入院保障がベースとなっていましたが、昨今はがんによる入院日数は短期化し、通院などによる治療も増えてきました。そのため、入院のみでなく、通院に対しても、バランスよく保障を考える必要があるといえます。
希望する保障が基本保障の主契約にない場合、特約で保障を補うことで希望にあった内容にすることができます。女性特有のがんが心配で、乳がんの保険が適用されない治療や子宮がんにおける上皮内がんの診断への保障を希望する場合を考えてみましょう。基本保障で、保険適用外の治療や上皮内がんへの保障がうすい場合、それらも対象とする特約をつけることでカバーすることができます。
先進医療の技術料は公的医療保険の適用外となるため、費用負担は全額自己負担となります。一方、先進医療の特約保険料は比較的手頃な場合が多いため、特約としてつけておくことがおすすめです。
先進医療は将来的な保険導入のために適正な評価を行うことが必要な療養として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。そのため、現在先進医療となっている治療が公的医療保険の適用になった場合は、本特約の給付金の対象からはずれますが、新たに先進医療となる治療がでてきた場合、本特約の対象となります。ただし、医療行為や医療機関、および適応症などによっては、給付対象とならない場合もありますので、治療を受ける前に主治医にご確認ください。
治療の選択肢を広げるためにも、本特約をつけておくと安心といえます。
がん保険の保険期間には、終身型と定期型があります。
<イメージ図>
同じ保障内容の場合、一生保障がつづく終身型は、定めた期間が保障される定期型に比べて、保険料が高くなることが一般的です。一方、途中で保険料がアップすることはありませんので、一生涯の保障を考えている方におすすめです。
定めた期間が保障される定期型は、更新時に保障を継続する場合、更新時の年齢に応じて保険料が上がります。医療の進歩に合わせて定期的に保険商品を見直したい方や、一定の貯蓄ができたら更新をしない方に向いています。
保障期間が定期型の場合は、保障期間と保険料の払込期間が同じ「全期払い」が一般的です。一方、保障期間が終身型の場合は、生涯にわたって保険料の払い込みが続く「終身払い」(全期型)と、60歳や65歳といった年齢、または10年15年の期間で保険料を払い終える「短期払い」があります。同じ保障の場合、払込期間中の保険料は、短期払いの方が高くなります。
現役時代の負担をおさえたい場合は「終身払い」、老後の負担をおさえたい場合は「短期払い」を選ぶとよいでしょう。また、途中で保険を見直す可能性がある場合は、それまでに払い込む保険料が少ない終身型がおすすめです。
保険は通常、年齢に比例して保険料は高くなります。よって、できるだけ若い時にがん保険に加入することで、毎月の保険料を抑えられます。
では最後に、年代別にがん保険を検討するうでのポイントなどを考察してみましょう。
20代、30代の特徴は、まだ十分に貯蓄ができておらず、これから働きながら貯蓄を増やしていく時期です。
がん保険を検討するポイントとしては、次のことがあげられます。
40代、50代の特徴は、働き盛りの時期で、子どもの教育費がかかることが多い時期です。
がん保険を検討するポイントとしては、次のことがあげられます。
60代、70代の特徴は、生活費を年金と貯蓄の取り崩しで行うようになることです。
がん保険を検討するポイントとしては、次のことがあげられます。
がんは治る病気になってきたとはいえ、実際がんに罹患した際は、不安に襲われると思います。
がんに罹患した際は、納得のいく治療を選択して、治療に専念したいものです。
そのためには、現在の医療事情などもふまえた自分にあった保障を、無理のない予算で設計することが大切です。
今回の情報が、皆さま方のがんの備えを考える機会になれば幸いです。
ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)、二種証券外務員、住宅ローンアドバイザー
2007年、FP Office Tomorrowを設立。長年の研究と経験、および会計事務所勤務時代に培った分析力を基に、総合的に家計を分析し、情報を通じて人々の未来を変えることを特徴とする。
また、講師活動にも注力し、有意義な情報をユーモラスに話すスタイルが好評を得て、登壇回数は2,000回を超える。
※記載内容および税務上のお取り扱いについては、2023年2月現在の内容であり、今後、税制の変更などによりお取り扱いが変更となる場合がありますのでご注意ください。また、個別の税務などの詳細については税務署や税理士など、専門家にご確認ください。
※このコラムの内容は各商品・制度の情報提供を目的としたものです。一般的な説明であり、特定の商品を説明・推奨・勧誘するものではありません。取扱会社などによって、お取り扱いが異なる場合がありますので、各資料などをご確認いただき、ご意向に沿ったものをご検討ください。
MLJ(CMD)23030129